研究期間(2年間)の前半である平成18年度は、アメリカ法における建物賃貸借の基礎理論の把握に主軸をおいた研究を行った。なお、アメリカの不動産賃貸借法制は、州法の管轄である。統一法典も整備されていないことから、具体的に、いずれかの法域を選択して研究を行う必要がある。この点、本年度は、ニューヨーク州法を中心とする研究を行った。 本研究の想定事案である賃借人による建物賃貸借の中途解約について、アメリカ法では、原則として中途解約による賃貸借の終了を否定したうえで、賃貸人に損害軽減義務を用いた調整を行っている。すなわち、賃借人による中途解約を、賃貸人が任意に受け入れる理論として、「surrender」という概念を措定しており、surrenderが成立しない場合には、賃借人が賃貸物件を明渡したとしても、賃貸借は終了せず、賃借人の賃料支払義務も存続する。この場合、賃借人が賃貸借関係から離脱する手段としては、賃階権の譲渡類似の構成によることになる。そして、賃貸人には、その賃借権の譲渡に助力する、一種の信義則上の義務が課せられる。 もっとも、近年では、住宅用不動産と商業用不動産とを区別して、かかる議論に修正を図る方向性も見られる。研究機関後半である平成19年度には、アメリカ法が、主として、損害軽減義務の概念によって、賃貸借の原則的な法理を、どのように修正しているのかを中心に研究を進める。なお、研究成果は、2年間の成果を合わせて1本の論文として公開する予定である。
|