当研究では、賃借人による賃貸借の中途解約が原則として認められない賃貸借法制のもとで、止むにやまれぬ事情で賃借人が中途明渡しを行わざるをえなくなった場合に、賃貸人と賃借人の利益をいかにして調整するのか、という点について、アメリカ法を素材とした検討を行った。 賃貸借を制限物権的に構成するアメリカ法においては、賃貸借期間満了前の賃貸借の解約は、当事者の合意による新たな物権変動であると構成されており、この合意がない場合には、賃借人の占有の有無を問わず、従来の賃貸借が存続するとされる。これに対する修正理論としては、本来、賃貸借法制度の外部的な理論であった損害軽減義務の導入の可否が争われている。 この点、当研究が注目したのは、「賃貸人の損害軽減義務」論の適用を否定する代表的法域であるニューヨーク州法でさえ、機能的に共通する規範を、個別の理論によって導いているという事実である。確かに、賃借人の中途明渡しに際して、賃貸人が再賃貸を試みず物件を遊休状態にしたまま従前の賃借人に賃料を請求し続ける選択をなしうるか、という命題の元では、両者の差異は端的である。しかし、賃料債権の保全に関心をもつ賃貸人が、かかる選択をすること自体稀であるし、「賃貸人の損害軽減義務」肯定法域でも特約による排除がなされていることが多い。ゆえに、同法理の主たる機能がかかる命題への規範の提供にあるかは疑わしい。むしろ、上記理論の実質上の主たる機能は、賃貸人が、賃借権の譲渡・転貸の承認(中途明渡し前)か再賃貸(中途明渡し後)のいずれかは試み、代替的賃借人から賃料を収取しながら、賃料債権の不足分の支払いを従前の賃借人に求めるという事案において、再賃貸の論拠と再賃貸に際して賃貸人に求められる注意義務の内容・程度に関する規範の提供にあるとみるべきである。
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