研究概要 |
デジタル技術の発展に伴って,情報が有体物に化体せずに流通することが可能となった現在,コピーを禁止するコピー・プロテクト技術,情報へのアクセスをコントロールできるアクセス・コントロール技術等の技術的保護手段の回避が法律で禁止されるに至ったことから,著作権などが満了した著作物等を有体物に化体させず,また敷地や空間などの所有権によらずして,情報をコントロールすることが可能になりつつある。つまり,情報に鍵をかけることにより,我々が博物館や美術館で美術作品に接する際に入館料を支払うのと同様の效果をもたらすことが原理的に可能になりつつある。 この問題を検討するには,一方でデジタル環境における情報取引や,技術的保護手段による情報の囲い込みと営業秘密の関係といった考察と,所有権と知的財産権の関係の再考という2つの手法を用いる必要がある。従来から,有体物の所有権を根拠として,その影像や名称の経済的利用をコントロールしようという動きは常に見受けられた。この問題点に関しては,博物館や美術館等において,著作権の満了した美術作品等を観覧するために入館者が入館料を支払っているという実体とも相俟って,問題の所在を明らかにすることが求められてきたからである。 本研究では,この問題を明らかにするに当たって,美術館や博物館の進めるアーカイヴ事業に着目することが有益ではないかと考えるに至った。そこでのビジネスモデルや業務慣行は,有体物と無体物の関係の考察,デジタル環境における情報取引といった問題を具体的に内包しているからである。 そこで,複数の施設におけるアーカイヴ事業の実熊調査を行ない,それらの問題点を洗い出すことを目指した。ここで得られた知見を基に,最終年度において,理論面において,より掘り下げた研究を進めて行くこととした。
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