本研究の目的は、医療契約とは委任とは似て非なる無名契約であるとの仮説から出発して、委任を下敷きにそれを修正した新たな独自の典型契約類型を確立することである。 すでに前研究によって、医療契約の実体的内容に関するわが国の研究の現時点での到達点を網羅的・体系的に明らかにする作業を終えている(「医療契約論-その実体的解明-」西南学院大学法学論集第38巻第2号61頁〜91頁(2005年10月)。 そこで本年度は、これをふまえ、次の段階の作業に取り組んだ。すなわち、医療契約の成立から終了までの規定・解釈を委任契約のそれと照らし合わせ、その一つ一つを、(1)「委任契約と共通する部分=民法の委任に関する規定・解釈が適用できる部分」と、(2)「医療契約に独自の部分=民法の委任に関する規定・解釈が適用できない部分」とに区分けした。そして、とりわけ(2)を取り出し、それが何ゆえに生まれたのかということを、「医療契約に本質的な要素とは何か」という命題に関連づけながら考察を進めていった。 現時点で、(2)に属する部分として、医師の守秘義務、医師の応招義務、医師の説明義務(契約当事者ではない家族・遺族への説明義務も含む)、患者の診療協力義務を選別済みである。 このうち、医師の守秘義務については、前研究課題と素材において重複するものであったため、本年度中に検討作業を完了している(前研究課題の成果と重複するが、「医療情報の第三者提供の体系化(一、二〜未完)」西南学院大学法学論集39巻3号1〜42頁、4号25頁〜48頁(連載中)、概略を第36回日本医事法学会シンポジウムで報告、報告内容は年報医事法学22号に掲載予定)。
|