本研究は、カナダ行政を主たる題材に「新しい行政責任」のあり方を解明せんとするものである。今年度は、彼国の現実動向を適宜フォローしつつも、とりわけ理論研究と我が国の現状分析に傾注した。その結果、下記の知見を得るにいたった。 第一に、斯学の行政責任論は、いわゆる「FF論争」をほぼそのまま継承するにとどまっており、NPMとガバナンスの時代にあって、その通用性を著しく低下させていること、したがって、再構築が喫緊の課題であることを改めて確認した。 第二に、しかし他方で、FFそれぞれの主張は、現代的アレンジを施す限りにおいて一定の現代的意義を持つとの感触も得ている。現段階では仮説にとどまるが、それは概ね次のような意味である。まず、NPMの道具的価値志向とガバナンスにおける協働の規範は、いわゆる「行政責任のディレンマ」をより深刻化せしめる。ファイナーの行政責任(ないしウェーバー型官僚制論)は、その解決策として再考の余地があるのではないか。次に、フリードリヒの責任論(特に「科学の仲間」論)は、市民セクターと行政との「補完」・「対等」関係に偏重した昨今の「協働論」再考の契機となり得る. 第三に、我が国の現状分析の一環として、(小規模)自治体について考究した。発表論文として掲げた拙稿がその成果である。もっとも、これは直接的には市町村「合併」ないし国・地方関係を取り扱ったものである。けれども、二つの「じりつ」概念(この峻別自体、もともと本研究の中心テーマたる市民セクター対行政関係を考究するなかで着想を得た)を手掛かりに、NPM型行政改革や協働(論)のインプリケーションを明らかにしたことは、「新しい行政責任」論構築の礎となったと思われる。
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