本年度の研究業績は以下のとおりである。 下水道行政の展開を理論的に考察した論文を公刊した。これは、2005年度日本行政学会で報告した内容をベースにもとに、追加ヒアリング等を行うことで最新情報をフォローしたものである。また、本論文の中には、科研費助成によって2007年2月に全都道府県に対して実施した「汚水処理施設整備のための組織体制及び方法等に関するアンケート」の結果をも盛り込んでいる。 従前わが国では、「一方の省庁が、他の省庁によって否定的な影響を受けていると認識する場合に生ずる過程」としての「省庁間コンフリクト」は害悪としてのみ捉えられがちであり、これをヒエラルキーによっていかに統合するかという点に関心が向きがちであった。しかし、本論文では、コンフリクト・マネジメントがなされることで、むしろコンフリクトの効用がもたらされるのではないか、という「逆U字仮説」に基づき、下水道行政の展開を具体的に追いながら、その仮説の妥当性を実証的に論じている。また、本論文は、自治体の先進的取り組みが省庁間コンフリクトを媒介にして自治体の選択肢の拡充につながったという側面に着目し、「自治体が『省庁間コンフリクト』をクールに利用しながら、自らの選択肢を拡充していく」という自治戦略の存在可能性をも指摘している。 以上のような内容を備えた本論文は、第1に、従前のセクショナリズムをめぐるわが国の行政学研究の通説的見解に対する批判を通じて新たなセクショナリズムのとらえ方を提示すると同時に、第2に、中央地方関係をめぐるとらえ方1についても新たな視点を提示しており、学界にとって意義ある論文となっていると思われる。
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