ジェンダーの観点からレジームの持続性とレジーム転換を考察する上で、就労と育児の関連に焦点を当てるのが有益と考え、実証研究では少子化問題と育児支援に焦点を当ててきた。 最終年に当たる08年度は、少子化対策の政治学的研究も継続しつつ(近刊予定の久米郁男編『専門知と政治』に「少子化問題と専門知」を寄稿)、同時にアイディアの政治論の流れで、従来、日本ではきわめて研究が少ない福祉国家と世論についての研究に着手した。福祉国家についての人びとの支持構造が変わることこそが、レジーム転換の最大の要因ではないかという意図もある。 08年度の成果としては、「福祉国家と世論」という論文を執筆したが、そこではこれまで日本ではほとんど紹介されていない欧米の研究動向をサーベイし、いくつかの論点を整理した。特に重要な論点は、ワーディングの問題、すなわち問題がどのように定義されるかという言説やアイディアの役割が、世論研究の分野でもきわめて重要である、という点である。そして、その後、日本についての既存の調査結果の再構成から、日本における福祉をめぐる世論を分析した。中心的知見の一つは、日本の世論においては(多く、の先進国と同様)、福祉国家への支持が引き続き高いということ、しかしながらそれに加え、日本においては現状維持志向が強く、負担を増やしてまで福祉が充実することは望んでいない人が多いということである。 その他、「貧困の再生産・格差の固定化と福祉国家」という論文も執筆したが、ここでは、社会保障費の多くの部分が高齢者関連予算として使われ、若者・子ども向け予算が少ないという日本の現状との関連で、実は子ども関連予算を増やすことには、支持があるはずだと論じている。
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