平成18年度は、学術論文を二本発表した。一本目はアメリカ型福祉国家の起源を、革新主義時代のニューヨーク市・ニューヨーク州を素材として検討したものである。これは、2003年度に東京大学大学院法学政治学研究科に提出した博士論文の一部を、本プロジェクトで検討しようとしている健康保険の問題を取り込んで大幅に発展させたものである。 二本目は、2005年度に発表した拙稿の続編として執筆したクリントン政権期の社会福祉改革に関する論文である。これらの論文は公的扶助の問題に力点をおいて執筆されてはいるものの、アメリカの福祉レジームにおいて公的扶助政策が健康保険の問題とどのような関係に立つかを前提知識として整理しており、本プロジェクトの基礎を提供している。 また、本プロジェクトに関連して、10月に立教大学で開催された日本比較政治学会の自由論題2「政治体制と政治過程・政策過程」で討論者を務めた。慶應義塾大学法学部の天野拓氏の「現代アメリカの医学研究政策と科学者コミュニティ」と題する報告に対するコメントの形をとりながら、本プロジェクトの研究成果の一部について言及した。 更に、本年度はアメリカ合衆国のニューヨーク州、ニュージャージー州、ワシントンDCで調査・インタヴューを行った。2006年11月に実施されたアメリカ連邦議会選挙、州議会選挙で社会福祉政策がどのような位置を占めていたか整理するとともに、今後のアメリカ政治の展開を理解する上で社会福祉政策(とりわけ健康保険政策)のあり方が重要な意味を持つことが確認できた。それらの知見については未だ脱稿するには至っていないものの、学術論文としてまとめることにしたい。
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