研究概要 |
本年度は,主として資料・文献の予備的調査を実施しつつ,ヨーロッパレヴェルの社会政策の展開についての動向を調査した. それと並行して,第一に,ヨーロッパ統合研究における方法論および視角に関する書評論文の形で公表した.そこでは,国民国家モデルのくびきを脱しつつ既存の研究蓄積を利用する方法がいかなるものか,トランスナショナルな規範と正統性の生成における部分政策システムと政体全体の関係をどのように理解すべきか,ヨーロッパ統合とよりグローバルな国際関係の変容の関係,EUのダイナミクスを捉えるためのアクターの次元の導入,という四点について,検討を行った. 第二に,ドイツ国内における市民社会組織の役割とその変容について検討し,その結果を論文集への寄稿という形で公表した.そこでは,歴史的に生成された国家社会関係の中でドイツの宗派系社会福祉団体が果たす意味を概観したうえで,現在の社会変容に直面した社会福祉団体の改革の試みを検討し,それが正統性の確保やサーヴィスの提供において果たしうる役割と限界を明らかにした. その他,EUレヴェルの社会政策の展開を,主として年金制度・政策の調整について調査し,その方向性を探る論文を執筆した.そこでは,EUにおける裁判所主導の規範形成が特定のタイプの政策との親和性をもたらしていることを明らかにした.また,次年度執筆予定の論文の準備作業として,EUレヴェルの社会政策ディスコースが,EU委員会とそれを取り巻く専門家やヨーロッパレヴェル市民社会組織のネットワークによって,制度化されていく構造を検討し,関連の研究者との研究会で報告し,意見を聴取した.
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