申請者は10数年来、日中関係を軸としながら、国際関係の研究に従事してきており、本研究では目中関係における歴史認識の研究を主として「田中上奏文」の側面から発展させた。実績の内容としては、大別して2つある。 第1に、日中関係史を実証のレベルと認識のレベルで分析し、歴史認識の乖離が生じる原因を解明することに努めた。そのためには、着実な事例研究を積み上げながらも、日中間における発想の相違に着眼することになる。研究の開始に際しては、近年、新規公開の進む史料状況を把握することから着手し、外務省外交史料館や防衛庁防衛研究所図書館、国立国会図書館憲政資料室所蔵など、各史料館での史料調査を進めた。同時に、歴史認識にかかわる内外の二次文献を取り寄せ、系統的な分析を加えた。 第2に、研究成果を活かしつつ、国内外に公表した。具体的には、拙著『幣原喜重郎と二十世紀の日本--外交と民主主義』(有斐閣、2006年12月)のほか、拙稿「『田中上奏文』をめぐる論争--実存説と偽造説の間」劉傑・三谷博・楊大慶編『国境を越える歴史認識--日中対話の試み』(東京大学出版会、2006年5月)を公表した。同稿は、「囲繞《田中奏摺》的論争--実際存在説与偽造説之間」(劉傑・三谷博・楊大慶編『超越国境的歴史認識--来自日本学者及海外中国学者的視角』北京:社会科学文献出版社、2006年5月)として中国で翻訳刊行された。
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