昨年度に引き続き、日中関係、とりわれ歴史認識問題を軸としながら国際関係の研究に従事した。本年度はとりわけ、満州事変後における歴史認識を掘り下げて、合わせて「田中上奏文」をめぐる宣伝外交を実証的に分析した。外務省外交史料館や防衛省防衛研究所図書館、国立国会図書館憲政資料室などのほか、二次文献についても系統的な分析を加えた。海外の史料としては、コロンビア大学所蔵の顧維鈞文書や張学良文書などを用いた。 そこから得られた知見は、大別して2つある。第1に、日中関係史における「田中上奏文」の情報戦としての側面を分析し、歴史認識の乖離を原文書に即して解明したことである。そのために、交渉としての側面のみならず、宣伝としての側面にも同時に注目した。これによって、国政政治における相互認識の形成過程を多面的に解明した。 第2に、日中関係をとりまく国際環境への着眼である。とりわけ、満州事変後から日中戦争、さらいは太平洋戦争にいたる過程において、アメリカの役割が高まった。このため今年度の研究では、日中関係のみならず、アメリカが東アジア政策において果たした役割に力点をおいた。アメリカが戦時中に行ったプロパガンダも俎上にのせた。 そのほか、日中歴史共同研究に参加し、福岡や鹿児島、さらには北京で会合を重ね、研究成果の一部を報告にした。すなわち、「日本の大陸拡張政策と中国国民革命運動」と題される第1部第3章がそれである。これによって、中国における当該分野の研究状況についての認識を深めることもできた。報告書は、平成20年度中に刊行を予定している。
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