平成18年度は、1940年代後半から50年代前半に西欧諸国で協議された「緑の共同体構想」と呼ばれる農業交渉の研究に取り組みつつ、農業統合がヨーロッパ統合の中で持ちえた意味について、農業政策規定の成立過程の中で登場したヨーロッパ共同体独特の政策メカニズムであるコミトロジーについて、その起源と発展について日本比較政治学会の研究大会にて研究報告を行った。また、これに加え、1950年代末に成立するフランスのドゴール政権が持った重層的な外交枠組に関する研究をフランス政治の学会誌に発表し、1960年代におけるヨーロッパ国際政治の展開について、単著にまとめた。これらの研究の諸成果は、ヨーロッパ統合が展開するマクロなメカニズムの解明を行いつつ、そのプロセスにおいて農業統合が果たした役割についての考察の帰結である点で共通している。コミトロジーに関しては、農業統合という欧州共同体加盟国にとって予算の負担と補助金分担というリソースの再配分機能を、加盟国が円滑に行うための措置であったのと同時に、そのメカニズムの導入は、共同体機構と加盟国間の力の均衡を図ることが共同体の政治過程における民主主義の確保につながると考えられたことを明らかにした。1960年代におけるヨーロッパ国際政治の展開については、フランス大統領ドゴールのヨーロッパ秩序再編政策の展開を追いながら、この時期にヨーロッパ共同体が経済的な問題を討議するアリーナだけでなく、政治的な一体性を持つ政治体として成長していくプロセスを跡付けた。なお、緑の共同体構想に関しては、ドイツの連邦文書館ならびにオランダの国立文書館にて史料収集を行った。しかし平成18年度中には、これらの史料を基盤とする研究論文を外部に発表することは時間的に不可能であった。平成19年度以降、随時研究発表を行って行きたい。
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