本年度における研究実績として以下の三点を挙げる。第一に、1950年代における農業統合の試みに関して、いまだ当時行われた交渉の実態の解明が部分的にとどまるために、当該交渉の主要参加国であるフランスとオランダにつき、史料収集を2008年3月に行った。フランスについては、パリの国立文書館所蔵のフランス農業省国際貿易局文書、オランダについては、ハーグの国立文書館所蔵のオランダ農業省国際管理局文書、およびアムステルダムの社会史国際研究所付属文書館所蔵のオランダ農業相(当時)マンスホルトの個人文書である。特に、マンスホルト文書は、これまでほとんど研究に使われていない文書であるため、今後の史料精読が求められる。 第二に、共通農業政策の成立が欧州統合全般に与えた影響の射程を測るために、共通農業政策の運営規定の策定時に、どのようなメカニズムに基づいて共同体政策を運用しようとし、そしてその結果登場した「コミトロジー」という欧州統合独自の政策過程メカニズムがどのように欧州統合全般に影響を与えたのかについて検討した。この論点については、論文にまとめ、明治大学政治経済研究所が発行する『政経論叢』に投稿応募し、受理されたことで掲載された。 第三に、欧州統合の歴史研究の今後の展開のあり方と、歴史研究そのものが持つ射程について検討した。この点については、短いスケッチとして『創文』に掲載された拙稿にそのエッセンスを描いた。すなわち、欧州統合が戦後の多層的な国際秩序の一つの層を形成していることから、その多層性の内部のダイナミズムの実態的解明、また欧州共同体が持つ広域秩序の政治空間がどのように歴史的に形成されたのかを解明することを挙げた。
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