本年度は研究最終年にあたり、成果のとりまとめを意識しながら、以下のような研究を行った。まず、これまで収集した1950年代における西欧農業統合に関する国際交渉の史料を整理、分析を進めた。史料解読を部分的に進めたその成果は、平成21年3月に刊行された「ヨーロッパ構築過程における共通農業政策の起源と成立1950-1962」『政経論叢』第77巻第3・4号として発表された。本研究成果は、1950年代前半にOEEC諸国間で開かれた農業統合に関する政府間会議(プール・ヴェール交渉)、1950年代中盤から後半におけるローマ条約成立交渉における農業規定交渉、そして1960年代初頭におけるEECの共通農業政策の具体的規定策定に関する共同体内交渉という、西欧農業統合に関する三つの国際交渉を通時的に分析したものである。本研究論文は、これまでほとんど注目されてこなかった農業統合に関する具体的論点を取り上げ、農業統合が必要とされた論理や、同時代における他領域の統合の進展に対する態度などを分析の俎上に載せた。ヨーロッパ統合の進展は、得てして単線的な発展を遂げてきたように理解されたり、また経済統合がその共通政策の柱だったために、経済学的分析を主眼とする研究では統合の政治的モーメントが無視されたり、逆に政治学的分析では経済的ロジックが等閑視されたりしてきた。農業統合の試みの分析は、統合の複合的発展経路を政治と経済を架橋しながら解明することにつながるものである。
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