本年度は、昨年度入手した、総務省統計局の公表する日本の家計に関する代表的な標本調査である「家計調査」を用いた分析を進めた。まず、日本の退職プロセスについてのマイクロデータを用いて概観した。これは、家計調査を短期パネルとして分析したことによって可能となった分析であり、大きな貢献であると考えられる。 分析の結果、日本において、勤労者は60歳で退職する比率が約10%で、他の年齢に比べ、きわめて高い退職率である。これは、定年退職制度によるものと考えられた。また、定年年齢が過去30年で55歳から60歳に変更されてきたことに注意して分析を進めると、家計調査での退職プロセスが定年退職制度と変遷と整合的であることが確認できた。 さらに、消費についてもパネルデータを用いて分析を進めた。その結果、日本の家計は、海外の先行研究での結果と異なり、退職時点では消費を減らしていないことが明らかになった。これは、多くの退職者が退職後の生活に十分な貯蓄を蓄えていることを示唆している。 こうした結果は、日本において退職金制度が諸外国と比較して多額であることが原因として考えられる。来年度以降、この違いがどのような要因で引き起こされているかについて、さらなる分析を進める予定である。
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