本年度は、前年までの成果である、調査された先行研究の手法・構築されたミクロデータを用いて、日本のデータにおける退職消費パズルの検証を行なった。その結果、日本においては、退職と同時に消費が減少するという意味においての「退職消費パズル」は存在しなかった。 この結果を受けて、退職時に日本における特有の制度的特徴である「退職金制度」が大きな役割を果たしていることが予想された。そこで、退職金制度が大きく異なる大企業・中企業・小企業それぞれからの退職者別に推計を行なった。その結果、大企業から退職者は退職時点で消費を減らしていないのに対し、小企業からの退職者は消費を減らしていることが分かった。これは、退職金制度によって退職時の所得の変動の効果を弱める効果があることを示しており、退職金制度の経済厚生上の価値を示すものである。 退職金に関する情報が極めて限定的であるため、企業規模別の推計のみ行なったが、将来の課題として、退職金に関する情報を直接活用した分析を可能としたい。
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