本研究の目的は、環境の保全と経済の成長・発展との関係を、経済学における非線形均衡動学理論の最近の発展を踏まえて理論的な側面から検討するものであるが、まず研究の開始にあたり、関連する分野(環境経済学、経済成長理論、非線形動学)の書籍や論文の整理および検討、シンポジウムや研究会への参加を通じ、既存研究および関連研究についての理解を深めることに努めた。なお、資料の整理においては学生アルバイトを雇用し、またモデル分析においてはコンピューターおよび数値計算ソフトウェアを使用した。 既存研究・関連研究の理解を深めた後、自らの理論モデルを構築する作業に着手した。具体的には、経済活動において環境汚染が発生し、資本蓄積を通じて経済が成長していくような動学的一般均衡モデルを構築し、この経済の均衡動学経路の不決定性について検討した。均衡の不決定性という問題は、経済学における非線形動学理論の主要なトピックの一つとして多くの研究がなされており、環境問題を考慮に入れた分析においても最近になって注目を集めつつあるトピックである。研究成果は"Indeterminacy and Comparative Advantage in a Dynamic General Equilibrium Model with Pollution"と題した論文にまとめ、3月に開催された慶應義塾経済学会主催のコンファレンス「環境経済学の新展開」(於ホテルアストン熱海)にて報告を行った。なお、同論文は『三田学会雑誌』100巻3号に掲載されることが決定している(平成19年度中に発行の予定)。同論文以外にも、いくつかの理論モデルの構築とその分析を、並行して進めた。さらに、関連する研究として、資本ストックとしての性質を持つような公共財の自発的供給の問題を動学ゲーム理論によって分析した(『高崎経済大学論集』に掲載の論文)。同論文のアプローチを応用・発展させることにより、環境の利用における複数の経済主体間の相互依存関係を考慮に入れた経済成長モデルの分析が可能になると考えられる。
|