本研究は、17世紀の英国共和主義思想の統一性と多様性の把握を目指し、そしてまた、アダム・スミスの社会科学体系における共和主義的要素の検討を長期的課題として念頭に置きながら、ジェームス・ハリントンの思想を、その封建社会論とプロパティ論とを中心に分析するものである。本年度は二つの作業を行った。第一は、ハリントンの封建社会論の基本的特徴の把握をする準備作業として、イングランド封建社会に関する重要な研究文献の精査を通して、ヨーロッパ封建社会一般に比しての特殊性の把握作業を行った。この作業によって、ハリントンの封建社会論に用いられているレトリックや隠喩がどのような特徴を持っているのかの概略を把握することができた。この成果に関しては、来年度において口頭発表を予定している。第二の作業は、ハリントンの封建社会論と密接な関連を持つ、政体に関する理論的な枠組みを明らかにするものであった。特に、政体の道徳哲学的側面や、他の同時代共和主義者であるジョン・ミルトンとの比較作業が行われた。この作業に関する研究成果の一部は、2006年度の三つの学会での口頭発表(日本イギリス哲学会関西部会研究発表(2006年7月、京都大学)、社会思想史学会全国大会個人研究発表(2006年10月、法政大学)、日本イギリス哲学会研究大会個人研究発表(2007年3月、同志社大学))で明らかにした。なお、今年度に予定していた海外調査・意見交換は、勤務校の用務などにより見合わせざるを得なかったが、意見交換予定者が日本へ渡航した際に面談を行ったこと、電子メールなどで資料調査の代替作業を行ったこと、各種電子データ・ベースを効果的に利用できたことなどから、研究の進捗に大きな影響を与えることはなかった。
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