本研究は、17世紀の英国共和主義思想の統一性と多様性の把握を目指し、そしてまた、アダム・スミスの社会科学体系における共和主義的要素の検討を長期的課題として念頭に置きながら、ジェームス・ハリントンの思想を、その封建社会論とプロパティ概念とを中心に分析するものであった。 最終年度に当たる本年度は、以下の二つの視点から研究をおこなった。第一に、昨年度に行った、封建社会に関するレトリックや隠喩に着目してハリントンの思想を解明する作業を踏まえて、封建社会の崩壊を帰結する土地変動の結果として成立したとされる共和政のイメージを、ハリントンが用いた比喩の特徴を明らかにすることで分析した。第二に、プロパティを中心とするハリントンが用いる様々な概念、レトリック、そして隠喩などが、どのような歴史的系譜をもつのか、そしてハリントンはそれをどのように継承し、どのように改変したのかに関して、英国共和主義思想の形成にとって重要な第一世代(ハリントンの一世代上の世代)との批判と継承関係(第一世代が依拠した古典古代からの様々な文献の解釈上の特徴の把握を含む)に留意して分析を行った。これらの研究成果の一部は、「ジェームス・ハリントンのAgrarian Law」として口頭発表された。残りの成果に関しては、現在、口頭発表及び論文発表の準備中である。 本研究により、共和主義思想の多様性・統一性と封建社会論との関連、プロパティ論がそこで果たす役割を明らかにすると同時に、ハリントンとは大きく異なる封建社会像を持つ、経済学の成立期の思想家への共和主義思想の影響の様相と程度に関する、より具体的な展望を得られた。
|