平成18年度は、カール・ポランニー(Karl Polanyi1886・1964)の社会経済思想に関する単著の執筆を目指して構想の具体化に取り組んできた。 具体化としてまず、ポランニーとP.ドラッカーめ思想的交流と決別について、ポランニーの『大転換』とドラッカーの『経済人の終わり』および『産業人の未来』における舞台設定や主要概念の類似性を調査した(2006年春、未発表)。 2006年8月にはポランニーの母国ハンガリーのブダペストと、ポランニーとドラッカーが青年期の恵想形成時に過ごしたウィーンを訪ねた。ウィーンでは。ノイラート、ミーゼス、ポランニーに連なる社会主義経済論争の舞台となったウィーン学団などの当時の思想的背景を調査した。 そして、1920年代の社会主義ヴィーンの住宅政策からジュネーブが先導する通貨政策への転換というポランニーの『大転換』の思想的起源のひとつをここに確認した。ブダペストでは中欧大学(Central European University)を訪ね、非英語圏を代表するポランニー研究者であるリトバーンの最新の研究書『20世紀の預言者、オスカール・ヤーシ』を入手した。若き日のポランニーが秘書を務めた自由主義活動家ヤーンとの生涯に渡る思想交流を資料的に開拓する可能性が拓けた。 2006年夏から秋にかけては、社会に経済を埋め込む方法としての「倫理」という塩野谷祐一氏の経済社会学方法論を学びながら、ポランニーにおける文化と福祉の概念について調査し、論文を執筆した(「ポランニー:社会の自己防衛から福祉国家の哲学へ」小峯敦編『福祉の経済思想家たち』ナカニシヤ出版)。 2006年冬以降現在(2007年春)に至っては、ポランニーの経済人類学的な遺稿集『人間の経済』を調査し、社会経済思想として読み解く可能性を検討している。ポランニーにおける市民的公共性論、民主主義論、および市場進化論的方法に対するポランニーの制度的方法論を明らかにするための論点に注目しながら、原稿を執筆している。
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