研究概要 |
平成19年度は,カール・ポランニー(Karl Polanyi1886-1964)の晩年の社会経済思想の研究に焦点を当てた。『大転換』後のポランニーの思想形成,とりわけ,1977年にコロンビア大学の同僚によって編集された遺稿集『人間の経済』(The Livelihood of Man)の思想史的な解読に取り組んだ。 4月〜8月にかけては,『人間の経済』の第三部「古代ギリシアにおける交易・市場・貨幣」と編集されたポランニーの古代ギリシア論を解読し,<市場の位置を理解することはポリスを理解することにほかならない>といら命題の意味を探った。そうした作業によって,従来,経済人類学として分類されてきた『人間の経済』をはじめとする『大転換』後のポランニーの諸論文が,経済人類学の領域を超えた社会科学における経済の領域と方法についてのロビンズやパーソンズなどの当時の論争を意識して書き上げられたものであることが判明した。この問題は,第二次世界大戦後のアメリカにおいて展開された,メンガーやウェーバー,シュンペーターなどが提起した経済学の定義をめぐる問題の新しい形での継承に関連付けることができる。こうした解読の仮説を裏付けつつ,平成19年9月〜11月は,上智大学大学院セミナーでのポランニーの社会哲学についての研究報告(11月26日)を行い,リサーチ・ペーパー(12月)を作成した。平成20年1月から3月にかけては経済学史学会若手育成国際セミナーでのポランニーの研究報告(一橋大学3月17日)に向けて英語報告の準備に取り組みながら,20年5月に愛媛大学で開催される第72回経済学史学会全国大会用の報告論文「ポランニーにおける『経済と社会』」を執筆した(3月15日提出)。この春の作業をもとに,平成20年4月30日に,経済学史学会若手育成国際セミナーでのコメントにしたがって書き直し,英文訂正を行い,英語論文の改訂ヴァージョンを完成させた(経済学史学会Lecture Note vol.1掲載)。
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