研究概要 |
平成19年度は昨年度に引き続き,近年確立された弱操作変数の検出法を消費資産価格モデルに応用することで,弱操作変数問題が異時点間代替の弾力性などの選好パラメータの推定値に与える影響を統計的に明らかにすることを目的とした研究を行った.本年度は,本研究課題の中間年に当たることから,プログラムの作成,テ゜ータの整理,昨年とは異なる資産収益率データに基ブく実証分析の実施,文献調査を中心に研究を進めた.昨年度は,対数線形のオイラー方程式を分析対象としたが,昨年の分析を精緻化するために本年度は,非線形オイラー方程式を分析対象とし,弱識別(線形モデルの弱操作変数に対応)にロパストな検定を,日本のデータへ適用することを試験的に実施した.データとしては,先行研究で一般的となっている安全資産収益に加え,資本の限界生産性をもとに計算した収益率も分析対象とした.異時点間代替の弾力性へのバイアスに関心があることから,このパラメータに下方バイアスをもたらすことが事前に分かっている1財モデルではなく,2済モデルを採用し,安全資産収益率と資本の限界生産性から計算した収益率のそれぞれについて,Sーsetと呼ばれる弱識別にロバストな信頼域または信頼区間を推定した.暫定的であるが,以下のことが分かった.第1に,安全資産収益率を用いた推定では,通常の信頼区間は弱識別にロバストなものと一致せず,弱識別の影響が観察される,第2に,安全資産収益率を用いた推定では,弱識別にロバストな信頼域や信頼区間は相対的に広くなる傾向が強い.日本のデータを用いた非線形オイラー放程式をもとに,弱識別にロバストな異時点間代替の弾力性に対する信頼域または信頼区間を推定した比較可能な先行研究は無く,これらは今回の試みによって始めて明らかになった点であると考えられる.
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