平成19年度は、18年度に得られた結果を基に、近年発達してきたMCMCなどのベイズ的手法を用いて既存の推定量の推定精度の改善を試みた。推定量の改善という点では、大きな成果を得られることができなかったが、そこで身につけた手法を基に、日本の金融政策における構造変化を検出する問題を考察した。その結果、1996年付近で日本の金融政策の効果に大きな変化が確認されたが、その変化は構造変化というよりは、2つの状態を行き来することを許すマルコフ転換モデルで記述する方が望ましいことが判明した。この結果は、国際的な学術雑誌であるJournal of the Japanese and International Economiesに掲載が決まった。また、本年度は多変量の極値の問題にも取り組んだ。そこでは、多変量の間の従属構造を記述する概念として注目を集めているコピュラという概念を取り上げ、複数の変数が同時に極値をとる場合の従属構造を、極値コピュラを用いてモデル化することを考察した。具体的には、国際株式市場が不安定な状態では、負の極値間の従属構造が、これまでの既存研究において一般的に使われてきた正規分布よりも、極値コピュラを用いてモデル化すると、モデルが改善されることを示した。さらに、この負の極値間の従属構造を無視することによって、金融機関において一般的に利用されているリスク指標が10%程度、過小に評価されることも確認した。そこで、得られた結果は、東京大学、一橋大学、日本銀行を含む複数の大学と研究機関でセミナーとして報告された。また、この結果は国際的な学術雑誌であるJournal of Financial and Quantitative Analysisに掲載が決まった。
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