本年度においては、研究計画で重視していた国際統計協会(ISI)の第56回大会における口頭発表を予定通り実施した。ディスカッションペーパーを請求されたので、海外の官庁統計実務家にも興味を持ってもらえたようである。ISIでは同分野の発表も多く、情報収集の上でも有意義であった。発表した成果は、以下で説明される結果の一部である。 理論研究について、これまではセル確率が対称な条件付き複合ポアソン分布族に関する「小数法則」を議論の基礎としてきた。今年度は、これをセル確率が対称でない一般の条件付き複合ポアソン分布族に拡張した。この結果より、個票開示リスクの上限が小数法則の極限分布で与えられると解釈出来る。何故なら、小数法則の極限操作は、個体のより詳細な情報を提供する事に相当する。そして極限分布は極限条件付き複合ポアソン分布族であり、これまでの理論研究と応用上の問題が新しい点でリンクする事となった。 疑似多項分布固有の研究成果としては、分散の簡潔な表現を得た。応用上は、レコードレベルリスク概念を実装して数値評価するに至った。日本での個票開示リスク評価研究はファイルレベルのリスク概念を前提としてきたが、海外研究ではレコードレベルリスクが注目されているように見える。従って、このような関心にも応える必要が有ると判断した。結果として、自然な方式による近似の精度が悪くなる事が分かる。その他、手つかずであったperturbationや局所的な秘匿手法のリスク評価について、互いに排他的なセル概念を用いる事で統一的に理解出来る事を明らかにした。
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