本年度は研究計画の最終年度である。実績として、これまでの研究成果をまとめた論文が査読付雑誌に受理された。この論文は官庁統計実務を議論しているが、数理統計・応用確率論上の理論的背景については、別途学会発表を行った。 まず実務的な成果を説明する。個票開示リスクを正確に推定する為には、超母集団モデルの族が必要となる。しかし従来、この族の構成方法は明示的に議論されていなかった。研究代表者は、この族の合理的な構成方法を提示した。提案した族は代表的な匿名化処理について閉じており、またジップの法則として知られる経験則とも整合的である。更に、個票開示リスクの上限を示唆するという利点を持つ。疑似多項分布はこの族のメンバーであり、特に個票開示リスク評価に必要な結果を与えた。また、疑似多項分布が族の中で良い候補となる例を報告した。他に重要なのは、局所的匿名化手法やパーターベーションのリスク評価を、従来のリスク測度と整合的に説明した事である。 数理的な成果としては、離散多変数分布の族を提案して性質を評価した。また、確率分割の族を小数法則によって特徴づけした事が重要である。その上で、この確率分割族がベル多項式を基準化定数とする事、従って性質評価において、ベル多項式で族の挙動を記述出来る事などを明らかにした。なおこの族の挙動は、疎な分割表における度数の挙動と対応している。疎な分割表の解析は難題として知られており、本研究はこの難題への新しいアプローチとして、注目すべきと考える。
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