研究概要 |
1.ARMAのスペクトル密度分解を実際に計算可能なアルゴリズムとして開発を行った.このアルゴリズムは,コンピュータを用いた実行可能性とRozanov等の解析的な方法を組み合わせたものである.さらに,提案された方法を用いてその分解の精度を調べた.通常経済分析で用いられる程度のARMAモデルに対してならば十分有効に推定できることが確認された.また分解された行列(canonical factor)の各要素を最小二乗近似によって特定化するため,様々な外生パラメータの影響を調べた.高次の代数方程式を扱うため,最小二乗近似を行う際のデータは,単位円の中か外かに関わらず,単位円に近いところで発生させる必要があることを確認した. 2.1.で提案された方法を用いた,反転可能なARMAモデルの推定法を開発した.MAが反転可能であろうがなかろうがスペクトラム密度は同じなため,最終的に得られたMAの推定値から求められたスペクトラムを分解し,反転可能なMAの推定値を求めることが可能になった.通常仮定されてはいるが実際には確認されていないことが多い問題なので,シミュレーションにより検出力を調べたり予測問題を扱う際には非常に重要となるものである. 3.ARMAのスペクトル密度分解アルゴリズムを用いて,偏因果測度を推定する問題を扱った.偏因果測度を扱う際に,スペクトル密度の和の分解を明示的に扱うことが問題となる.2変量間の因果性ではこのような問題は生じない.スペクトル密度の和が対応しているモデルは分からないが,それを直接分解する方法は上記にあるように開発されているので,それを用いることにより和の分解を扱うということが可能になったのである.これにより,以前は抽象的であった偏因果測度の推定問題を,パラメータの推定から因果測度の推定までを具体的に計算可能な方法として提案することが可能となった.
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