研究概要 |
近年急速に発展してきた行動経済学の成果をいわゆる「組織の経済学」へ応用し,旧来の経済学の枠組みでは解明しきれなかったいくつかの現象に対して,新しい知見を得ることを目標に研究を行っている.今年度は特に,これまでの研究に引き続き,経済主体(エージェント)が自分自身の属性に関して不完全な知識しか有していない状況(imperfectly known self)で,制度やインセンティブといったものの機能がどのように変化し,そしてその結果,どのような含意を生み出すのかという点について理論的な研究を行い現在までに二つの論文を作成した. 一つ目の論文では,エージェントの能力に関して,エージェント自身よりも管理者であるプリンシパルの方がより正確な情報を有している状況を想定し,こうした状況における最適な昇進ルールについての分析を行った("Optimal Promotion Policies with the Looking-Glass Effect,"Journal of Labor Economicsに公刊済み).従来の分析においては,組織において降格人事がほとんど観察されないというよく知られた事実を説明することは非常に困難であったが,この分析によりこの問題に新たな視点を提示できたのではないかと考える. 二つ目の論文では,エージェントは自分自身の能力水準から直接または間接的に効用を得る(self-esteemconcerns)状況を想定し,こうした状況において最適な契約がどのような影響を受けるかという問題についての分析を行った("Contracting with Self-Esteem Concerns,"OSIPP Discussion Paper DP-2006-E-004,現在投稿中).今後は,査読誌への掲載を目指し,この論文を各研究会や学会等で報告を適宜行っていく予定である.
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