研究概要 |
本年度は主に以下の二つのテーマにそって研究を行った.一つ目は,各経済主体が自分自身の能力や属性に関して不確実な情報しか有さない状況において,自尊心(self-esteem)や自信(self-confidence)といった要因が組織のパフォーマンスや契約の形態にどのような影響を与えうるのかについての分析を行った.この分析では特に経済環境の不確実性が経済主体の行動にどのような影響を与えるかという点に着目し,契約理論でのモラルハザード問題の中核をなす不確実性とインセンティブの関係についての新たな視点を提供している.この成果の一部はワーキングペーパー("Contracting with Se1f-Esteem Concems,"OSIPP Discussion Paper DP-2006-E-004-Revおよびその改定バージョン)としてまとめ現在学術誌に投稿中である. 二つ目のテーマとして,組織内部におけるリーダーシップの果たす役割についての分析も行った.リーダーシップに関しては,経営学やそれに隣接する心理学の領域などで膨大な蓄積がある分野であるが,経済学の手法を用いた分析はまだ十分とは言いがたい状況である.この理由としては,リーダーシップという概念が非常に多様でかつ曖昧であるという点が大きいであろうと考えられる.こうした点を鑑み,現在進行中の研究では,リーダーシップという概念をリーダーの決断力という限定された側面から解明するモデルを構築し,その含意について分析を行った.この成果の一部もワーキングペーパー("Decisiveness,"OSIPP Discussion Paper DP-2008-E-002)としてまとめ,今後はセミナーや各種の研究会での報告を経た後に学術誌への投稿を目指す予定である.
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