研究概要 |
近年急速に発展してきた行動経済学の成果をいわゆる「組織の経済学」へ応用し, 旧来の経済学の枠組みでは解明しきれなかったいくつかの現象に対して, 新しい知見を得ることを目標に研究を行っている. 今年度は特に, これまでの研究に引き続き, 経済主体(エージェント)が自分自身の属性に関して不完全な知識しか有していない状況で, 制度やインセンティブといったものの機能がどのように変化し, そしてその結果, どのような含意を生み出すのかという点について理論的な研究を行い現在までに二つの論文を作成した. 一つ目の論文では, エージェントは自分自身の能力水準から直接または間接的に効用を得る(self-esteem concerns)状況を想定し, こうした状況において最適な契約がどのような影響を受けるかという問題についての分析を行った("Contracting with Self-Esteem Concerns," OSIPP Discussion Paper DP-2006-E-004, 現在投稿中). 今後は, 査読誌への掲載を目指し, この論文を各研究会や学会で報告を適宜行っていく予定である. 二つ目の論文では, エージェントが時間をおって情報を獲得していく動学的な状況において, self-esteem concernsの存在が意思決定を歪めるメカニズムの分析を行った("Vision and Flexibility," OSIPP Discussion Paper DP-2009-E-001, 現在投稿中). この論文においては, self-esteem concernsの強いエージェントは, 過去の自らの決定に過剰に影響されるため, 柔軟性を失うことで意思決定の効率性が低下するメカニズムを提示している. この論文についても, 査読誌への掲載を目指し, 各研究会や学会で報告を適宜行っていく予定である.
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