交付申請書で研究実施計画を説明した2論文のうち、日本の製造業の雇用に輸出入の効果に加えて日本企業の海外生産活動の効果も合わせて実証分析を行った成果は、論文「日本経済グローバル化の諸要素が製造業の雇用に与える影響について」というタイトルで、商学研究第25号(日本大学商学部商学研究所)に掲載した。論文の主な結果は以下の3点である。(1)国・地域別の輪出額・輪入額の変化率は、正の効果・負の効果両方がそれぞれいくつかの国・地域について見られる、(2)海外生産活動の指標は従業員30人以上の事業所についてはNIEs4力国・地域に関しては有意な正の効果、ASEAN4カ国については有意な負の効果を持つ、(3)海外生産活動の指標は従業員30人未満の事業所についてはNIEs4力国・地域、ASEAN4力国に加えて中国が有意な負の効果を持つ。 もう一つの企業の海外移転が国内雇用の喪失につながる「経済の空洞化」に関する理論研究は一数値例による政策的含意を加えた分析を新たに行い、現在The International Economy(日本国際経済学会)に投稿中である。主な結果は以下の3点である。(1)自国企業と消費者それぞれについて、外国の賃金を所与として賃金に関する閾値が存在する。外国の賃金が2つの閾値を等しくする水準以下の場合、自国企業はFDIを選択するが、それは消費者が自国企業のために働かないという理由で非自発的である。(2)FDIの固定費用の減少は、自己企業と消費者両方の利益となりうる。(3)一方自国の最低賃金の増加は、必ずしも消費者の利益になるとは限らない。 この他日本経済の国際化に関する理論分析として、海外直接投資(FDI)のスピルオーバーに関する理論研究と、その学会・研究会での報告を行った。
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