本研究の目的は、これまでの政府による金融行政に影響される形で、間接金融に大きく依存してきた金融業における我が国特有の産業組織を考慮した上で、年金額の増大や、M&Aのケースの増加といった社会的動向を鑑み、直接金融に焦点を当て、より効率性の高い証券市場と、それに関連する望ましい法制度・政策のあり方を探求することである。本年度はまず非効率性の観察される普通社債市場を分析し、次のような理論・実証結果を得た。先行研究では、我が国では普通社債は発行市場において、流通市場の実勢から大幅に乖離した低い利回りの設定が行われることが現在まで指摘されてきた。本研究ではまず社債の第1回目の起債銘柄であるIPO(Initial Public Offering)はSPO(Seasoned Public Offering)と同様に低い利回り設定がされることを実証的に示し、内外の株式市場と全く反対の傾向が観察されることを示した。さらに、時系列的に分析をすると、引受主幹事証券会社を経験した証券会社が少ない期間に起債された銘柄ほど、低い利回りが設定されることを確認した上で、この現象を証券業の産業組織の観点から説明する経済理論モデルを組み、国際学術雑誌に投稿した。この理論モデルでは、新発債が発行市場で低い利回りが設定される原因は、証券業の産業組織的要因や資金需要側の要因に求められると説明しているが、他方で資金供給側の要因がこの現象の成立に寄与していないかを探ることも、重要な課題となるから、これは次年度の課題となる。 またこの他に、証券業の生産効率性を計測することで産業組織を実証的に分析する研究も行った。証券業務は発行市場における引受以外にも自己売買など複数の業務があげられるが、特に近年になり増大したインターネットの委託売買業務に重点を置く、上場証券会社以外の中小の証券会社も含む収益性のデータをパネルの形式で独自に構築し、その分析を行った。結果として、従来の支店営業よりもむしろインターネットをリテールとして重視している新興の証券会社はむしろ生産の効率性は低いことや、物理的に店舗を持つ証券会社は支店を増加させるほどその収益を圧迫することなどが明らかとなった。こちらの成果も国際学術雑誌へ投稿中となっている。 本年度は研究の初年度のため、以上の国際雑誌に投稿中の研究成果は研究代表者所属機関のワーキングペーパーとした。
|