研究概要 |
平成20年度においては、主に「銀行貸出市場における供給側(銀行側)の分析」を行った。具体的には、日本の銀行部門において、収益率やリスクが、貸出、株式、国債などの種々の資産間でのポートフォリオ選択行動にどのような影響を与えていたのかを実証的に考察した。キーとなるtime-varyingなマクロ経済の不確実性(リスク)を表す代理変数には、トレンドが除された鉱工業生産指数にGARCHモデルを適用して抽出される条件付分散値を採用した。 Markowitz型のポートフォリオ選択理論をベースにモデルを定式化し計量分析を行った結果、収益率スプレッドは安全資産比率(国債/貸出比率、国債/株式比率)に対してそれほど影響を与えないが、マクロ経済の不確実性の高まりは安全資産比率を有意に上昇させることを確認した。また、後者におけるマクロ経済の不確実性が安全資産比率に与える正の影響については、地方銀行に比べて、都市銀行の方が強いという興味深い事実も明らかになった。 本研究の実証結果は、現在の日本の銀行部門において発生する可能性のあるサブプライムローン問題に起因する信用供給の縮小に対して、一つの政策処方箋を提示する。すなわち、銀行部門にとって危険資産である貸出の供給を大きく減少させないようにするためには、同部門に対する監督の強化や公的資本注入等のプルーデンス政策に加え、適切な財政金融政策によってマクロ経済の振幅(不確実性)を軽減していくことが、実はきわめて重要な要素になり得るのである。なお、以上の研究成果を基にした論文は、KIER Discussion Paper Series(No.0812, 12009Mar)において発表されている。
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