昨年度までの研究では、ネットワーク外部性を考慮せず、また主にラテンアメリカ諸国を対象に通貸代替、およびラチェット效果の存在についての分析を行ってきた。 本年度の研究では、インドネシアを対象に、ミクロ経済学的基礎を持ち、ネットワーク外部性を含む通貸代替型money-in-the-utility-functionモデルを構築し、推定式を導出、分析を行った。これは、アジア諸国における通貸代替の研究はあまりなされていないこと、また、支払い手段として外貸を用いる経済主体の数が多くなれば、外貸を用いて財を購入する際の限界費用を逓減させるように作用するため、自国通貸ではなく外貸を保有するインセンティブ(通貸代替)が高まるというネットワーク外部性が通貸代替の進展に大きな影響を及ぼす可能性があることを考慮したためである。 推定にはARDLモデルを用いた。これは、通貸代替には、マクロ経済が不安定な時には急速にその程度は増大するが、マクロ経済が安定化しても、短期的には自国通貸への回帰がみられず、その程度は徐々にしか低下せず、長期においてのみ安定的な関係に収束するというラチェット效果が存在するためである。 分析の結果、インドネシアにおいては通貸代替が進展しており、かつラチェット效果が存在していることが明らかとなった。これは、インドネシアにおいて最適な為替相場制度を選択する際には、通貸当局は通貸代替の存在を考慮しなければならないことを意味する。このような状況下で、どのような為替相場制度が最適であるかを明らかにすることは今後の喫緊の課題である。
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