わが国において金融政策の政策効果が迅速にかつ十分に達成されていない原因として、ハイパワード・マネーとマネーサプライとの間に安定的な関係が崩れていることが考えられる。当該研究の目的は、その構成要素である金融(銀行)部門の流動性需要(日銀預け金+現金)に焦点を当てて、その決定要因について実証的な検証を行うことである。 平成18年度の実施内容として、まず先行研究の整理を行った。本研究と同じ位置づけにある研究として、Ogawa(2006)が挙げられる。流動性需要の理論によれば、利子率の上昇は銀行にとって流動性需要における機会費用の上昇をもたらすので、利子率と流動性需要の間に負の関係が成立する。また、不良債権比率の高い銀行は、短期金融市場での資金調達が困難になり、銀行は流動性リスクに備えて、流動性需要を高めようとする。先行研究は、パネルデータを用いた実証分析を行い、理論と整合的な結果を報告している。 そこで、本研究では、パネルデータによる分析ではなく、マクロデータによる時系列分析(共和分回帰)によって流動性需要関数を推定する。この分析により、彼らの分析結果についての頑健性を検証できるだけでなく、彼らの分析の中であまり注目されていなかった、(1)時系列的な要因が銀行の流動性需要に与えた影響、(2)日本経済の構造的な変化が銀行の流動性需要に与えた影響を考察できる。 推定モデルについては、ベンチマークとして、先行研究の推定モデルを用いて分析を行った。実証結果として、概ね先行研究の実証結果を支持しているが、利子率やリスクに対する流動性需要の感応度が量的緩和政策実施後において変化していることも示している。但し、パネルデータを扱う推定モデルをマクロデータにそのまま応用することは、推定上の識別の問題が残されており、さらなる推定モデルの改善の必要性がある。これについては19年度の課題である。
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