近年、わが国の銀行部門による流動性需要は大きな変動を示している。銀行部門の流動性需要の変化は、非銀行部門の現金保有の変化とともに、マクロ経済政策に対して重要なインプリケーションを持っている。信用乗数の理論から明らかなように、流動性需要の変動は、日本銀行のハイパワーマネーとマネーサプライとの間に成立する安定的な関係を崩してしまうことになり、金融当局にとって金融政策の適切な運営に支障をきたすことになる。それ故、銀行部門・非銀行部門の流動性需要がどのような要因によって説明されるかを言及することは、金融政策の有効性を議論する上でも重要である。 本研究では、銀行による流動性需要に関する最適選択問題を解くことで、銀行の流動性需要に影響をもたらす要因(利子率とリスク変数)からなる実証可能な推定モデルを導出し、それを構造変化を考慮した共和分回帰分析を行うことで実証的な検証を行った。特に、本研究では、銀行部門による流動性需要、利子率、および、リスク変数の間に成立する共和分関係に着目することで、長期的な流動性需要関数の推定を行っている。また、構造変化を考慮することによりいくつかの興味深い結果を示している。 本研究で得られた実証結果としては次のとおりである。 1.全体的な結果として、銀行部門に対する信用不安の上昇および利子率の低下は、銀行部門の流動性需要を上昇させる効果を持つ。 2.2002年4月(ペイオフ制度解禁)前後において構造変化が検出され、それぞれの変数の流動性需要に対する影響(共和分ベクトルの係数)は、構造変化時点を境に大きく変化している。特に、前半期では銀行部門に対する信用不安が銀行部門の流動性需要に対して有意でかつ正の効果を有しているのに対し、後半期では利子率が銀行部門の流動性需要に対して有意でかつ負の効果を有している。
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