今年度は、以前から取り掛かっていた論文"Delegation of policy tasks from the politician to the bureaucrat"の最終的な改訂をまず行い、日本応用経済学会春季大会(於福岡大学)で報告を行った。これにより、再選を目指す政治家と自らのキャリアアップに関心のある官僚の間の政策実行業務において、住民にとって望ましくない委任が政治家から官僚へと行われることが明らかになった。さらに、各自治体内に存在する特定利益団体のレントシーキング活動が各自治体の選挙や選挙によって選ばれた代表同士が行う自治体合併交渉にどのような影響を与えるかという問題意識の下に論文「自治体のレントシーキングと地方分権」およびこれを加筆修正した「自治体合併における選挙と特定利益団体」を完成させ、日本地域学会(於千葉商科大学)と日本応用経済学会秋季大会(於広島修道大学)で報告した。この論文によって、特定利益団体は公共財供給可能な地域での代表選出の選挙において、住民が戦略的投票を行うインセンティブを与え、その結果、地域間の合併がない場合は、社会的に望ましい公共財供給水準は実現されないことが確認されている。また、地域間の合併がある場合、公共財の外部性が正のときは、地域間の合併交渉は合意に達することはなく、外部性が負の場合にのみ合併が合意に達する可能性があるばかりでなく、合併交渉によって社会的に最適な公共財の供給がなされる可能性があることが明らかにされている。本論文において特定利益団体は、政治献金というレントシーキング活動を、地域間の合併交渉が行われることを知らない、あるいは予想できない状況での分析を行っている。現在ではこれを引き継ぐ形で、特定利益団体がこのような合併交渉を予想可能な場合の分析に取り掛かっている。また上記の論文を現在、成果公表のため査読付学術雑誌に投稿中である。
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