昨年度に開発した、標準的な教育シグナリング・モデルを応用した学生・大学間のマッチング・モデルを発展させ、政府による学生のアドミッション・ポリシーや均衡の相違が労働者の所得格差に与える影響を考察した。 本研究では、大学に序列が付かない均衡や、それを可能とするアドミッション・ポリシーの方が、大学が序列化される均衡に比較して、学生間の教育投資量の分散が小さくなり、したがって労働者の所得格差が小さくなることを示した。これは、大学が序列化される均衡のもとでは、大学に進学する学生の間では、より上位の大学名=シグナルを得るための学生間の教育投資競争が激しくなるが、序列が付かない均衡ではそれがないこと。また、序列が付かない均衡では、能力の劣る学生も大学に進学することで、大学進学者というプールのシグナル効果にフリーライドできるため、大学進学のインセンティブが高まり、その結果教育投資量も増加するが、序列化される均衡ではフリーライドの効果がなく、大学進学を諦める学生が多いことが理由となる。 本研究の、序列の付かない均衡、およびそれを実現しやすくするアドミッション・ポリシーは、ヨーロッパ諸国の均衡に対応しており、一方序列化される均衡は、日本の現状に対応していると考えられる。これより、日本のアドミッション・ポリシー(明確な大学入学資格要件の要求がなく、大学名のシグナル獲得競争が実質的に学生の教育努力インセンティブを担保している現状)が労働者の所得格差の拡大に寄与している可能性が示される。
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