本研究においては、貨幣と実体経済との関係を内生的貨幣供給理論のフレームワークから構築しつつ、金融システムショックがそのフレームワークにどういった影響を及ぼし得るのかという問題に鑑み、実証分析を行っている。その実証分析では多角的視点からの包括的考察が必要である。すなわち、実体経済の簡単化の程度に応じた分析をしていくことが有用であるということと、理論的構造をどれだけデータをもとにした推定に置き換えられるのかという程度に応じて多元的なモデリングの手法(Pluralist approach)があり、本研究はこの点に鑑み、数種の計量モデルを構築し、検討を重ねてきた。 平成18年度は、郵便貯金残高を組み入れた実質貨幣と実質GDPの2変数VARに金融不安度を導入したモデルによる実証分析の結果から、マクロ経済変数の変動に関し、貨幣的変化がいつも均衡化への強い傾向を持つとは仮定できず、金融システムの不確実性に起因する、金融不安度というものを重視するに足る一定の成果を導き出した。 また、貨幣が内生的に生成発展する性格を持つものであるとの洞察のもと、企業が発行しうる負債を厳格に制限し、もって金融機関のなしうる活動を有効に制限すべきであるという基本的見解を得ている。一方、マネタリーなショックに対する影響に関し、推定モデルの違いによる差異が生じるという意見の分かれる点が露見されている。さらに、金融システム不安の構造解析に関する研究に着手している。法規制・慣行等、金融取引の前提となっている金融構造と、その構造のもと存在する金融機関、企業、個人等各経済主体の金融取引のビヘイビア、これら2つを統合して金融システムと定義づける。そして、経済主体の利潤最大化行動が既存の金融構造を疲弊させ、金融システムに対する不安を抱きながらもイノベーションに向けて絶えず変容していく動態を実証分析で捉える研究を進めている。
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