研究概要 |
1.アメリカの経常収支赤字の調整過程に与える為替レート・パススルー低下の影響は、必ずしも悲観的なものではない。 「(a)輸出入の価格弾力性」と「(b)消費の異時点間代替弾力性」がともに小さい場合、「(c)輸入物価への為替レート・パススルー」が低下する結果、経常収支赤字の縮小に伴う名目為替レート減価の大きさはより小幅になる。この点を、価格硬直性を考慮した動学的開放マクロ・モデルを用いて示した。既存の実証研究は(a)(b)がともに小さく、(c)が90年代以降いっそう低下していることを示しており、アメリカの経常収支赤字調整に伴うドル暴落の可能性は低いと考えられる。掲載論文:"The U.S. Current Account Deficit and the Dollar : Another Implication of an Incomplete Pass-Through," The International Economy, No.10,pp.15-33. 2.1990年代後半以降急激に進む国際資本移動の拡大が、国際流動性資産としての米ドル建て資産への需要を高め、結果としてアメリカの経常収支赤字拡大をもたらしている可能性がある。 グロスの国際資本移動の急増により、グロスの対外資産と対外負債の和の対GDP比率が、特に先進国において90年代末以降著しく増加している。グロスの資本移動拡大は、資産売買を迅速に行う必要性を高め、流動性の高い対外資産であるドル建て資産に対する需要を高める。国際流動性資産需要の上昇ショックとして、グロスの資本移動拡大による内生的なものと、外生的なものに分けて分析した結果、以下の点が明らかとなった。対外純債権国の場合、ドル建て流動性資産需要の高まりはさらなる経常収支黒字の拡大をもたらす。対外純債務国の場合は、ドル建て流動性資産需要の高まりに伴う経常収支の動きは理論的には確定しない。ここでは、為替レート変化の資産価格評価効果(valuation effect)が経常収支の動きを左右する働きを持つ。理論の前提となる仮定の現実妥当性の検証が今後の課題である。掲載論文:"International Financial Integration and an Increasing Demand for International Liquidity, " 2006年度日本国際経済学会全国大会報告論文、2006年10月。
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