経常収支が赤字基調から黒字基調へと急激に転換する現象を「経常収支の反転」と呼ぶ。経常収支の反転は当該国の経済成長率低下と実質為替相場減価を伴うことが多い。また、90年代末以降には、米国の経常収支赤字拡大がいずれドル暴落など急激な調整を招くのではないかと不安視され続け、遂に2007年夏サブプライム危機発生に至った。これらは一国の経常収支赤字が急拡大する際その背後に大きな経済的不均衡が存在し、その不均衡がいずれ経常収支の反転をもたらすと同時に当該国経済に痛みを伴う調整を強いる可能性が高いことを示している。よって、今後経常収支の反転の発生確率を低める方策を考えるうえでも、反転を引き起こすメカニズムを理論的に解明することが重要である。このような問題意識に立ち、株価バブルの発生と崩壊が経常収支の反転を引き起こすことを理論で示した。 株価バブルは、経済主体が生産性を過大評価すること、すなわち、恒久的な生産性上昇ショックが起こったと人々が錯覚することによって発生するため、経常赤字を生む。逆にバブル崩壊は人々がその錯覚に気付くことなので、生産性低下ショック同様、経常黒字を生む。ただし、バブル期の経常収支変動は、生産性上昇・低下ショックが現実に起こった場合に比べ過大になる。なぜなら、バブル期には現実の生産量がそれほど増えないにも関らず投資・消費が増加するため経常赤字は過大になり、バブル崩壊後はそれまでの過剰投資・消費め付けを払う形で投資・消費が急減し経常黒字が過大になるからである。90年代前半のEMS通貨危機前後におけるスウェーデンとフィンランドの経験はその一例と考えられる。また90年代末以降米国の経常赤字が急拡大してきた背後にもITバブルや住宅バブルが発生していた。よってサブプライム危機により一連のバブルがはじけた今、いずれ米国の赤字が「反転」する可能性は十分に考えられる。
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