本研究は、両大戦間期から戦時期までの産業復興公社(以下、IRI)による産業関与について、その実態を解明し、イタリア経済における当該機関の活動の意義づけを行うことを目的としている。平成18年度は、IRIが大不況期に計画・実施した企業再生事業について、内部史料を紐解き、IRIによる企業審査の実態やコーポレートガバナンスの様態について、その全体像の解明を進めた。その結果、IRIが原則として掲げた「市場原理を貫徹した企業再生」について、個々の事例を明らかにし、具体的なイメージを掴みつつある。 また、1933年のIRIの創設によって、大銀行と企業の信用関係や大資本の産業支配力がどのように変化したか、つまり、イタリア資本主義の勢力図の変化を照射することも、本研究を通して、明らかにできたらと考えている。この視点から、1990年代までのイタリアにおいて、事実上の独占禁止法の役割を果たしてきたといわれる国家持株会社による産業関与体制が、大資本による独占防止装置としていかに機能したのか、IRIと大資本との関連を独占防止の実態と効果にも注目して研究を進めてきた。 さらに、1930年代に、当該機関を創設し総裁として運営したアルベルト・ベネドゥーチェは、イタリアの金融・産業界および政策当局の中核を担った人物であると同時に、1920年代以降イタリア代表として、国際連盟や国際決済銀行(BIS)などの国際的中央銀行間協力の舞台で活躍したという事実に着目し、対象時期のイタリアにおける経済への公的介入や、金融再編と、国際的な金融思潮との関係はどのようであったのか、また、国際収支状況、即ちリラ相場の維持の要請が、IRIの改革をどのように規定・制約したかについて、検証を進めている。18年度には、国際決済銀行資料館においても、イタリア代表に関する資料を調査・収集した。
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