第二次大戦後のイタリア経済は、しばしば「混合経済」という言葉で特徴づけられるように、国家持株制度を通した国家の経済介入が大規模に行われてきた。この制度を担った国家持株会社の中でも、最大の機関が、産業復興公社IRI(イリ:1933-2000年)である。当該機関は、1930年代から、イタリアの産業部門の株式資本の40%にあたる企業と、金融部門の中核を担う大銀行とを統治し、戦後復興や1950年代の「奇跡の成長」を牽引したとされる。また、数多くの政策担当者や企業経営者を輩出し、イタリア経済に少なからぬ影響力を持ったと考えられる。本研究では、1937年のIRIの「恒久化」(国家持株会社化)と、さらには、当該機関の戦後への継承の背景を理解するために、これまでに行ってきた1930年代のイタリアにおける抜本的な経済再編の全体像の解明を、さらに進めることを目標とした。具体的には、IRIによって「市場原理を貫徹」して実施されたとされる企業再生について、IRIの計画・実行した個別事例の検証から全体的なモデルの把握につなげた。個々の企業の再生計画についての膨大な史料を紐解くなかで、IRIの産業金融部および産業清算部の企業審査能力とコーポレートガバナンスの様態を検証し、さらには、IRIが計画実行した産業政策がイタリア経済に与えた影響の検証を行った。
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