19年度は引続き史料調査を続けるとともに、収集した史料等の整理作業を行った。近世労働関係史料のうち、比較的研究の蓄積がある建築職人関係に対象を絞り、キーワード等を付与して整理した。総コマ数としては2万を超える。原則として、幕府や、藩が公権力を背景として行った普請、作事については対象から省いた。主な史料としては鴻池家文書、三井文庫所蔵文書、鈴渓資料館所蔵文書、山口県文書館所蔵文書、加越能文庫所蔵文書、関西大学所蔵文書、各市史の史料等である。対象地域としては京・大坂を中心として東は名古屋から西は山口まで、時期的には17世紀から20世紀初頭のものまでとした。今後詳細に検討する予定であるが、一見しただけでも建築に従事している職人集団の内部構造が明らかになるような史料は極めて乏しい。 その中で鴻池家文書については以前に調査した史料も含め、かなり立ち入った分析が可能であり、近く論文の形で発表する予定である。また三井文庫所蔵文書については時系列的な研究が可能であり、これについては先行研究が存在するが、鴻池家の史料と照らし合せた結果、賃金等の比較が可能となり、京・大坂の大工賃銀について新たな知見が得られた。この点についてはデータベースの解説として公開する予定である。 なおこれらの史料をデータベース化する作業については現在のところ汎用性などを考慮してExcelで作成している。時期、地域、史料の概要等を掲載している。またいくつかのキーワードを付与して、検索の便を図った。将来的には画像などとともにデータベースソフトを利用してリレーショナルデータベースとする予定であるが、史料所蔵者との調整が完了していないものがあるため、当面画像の公開については見合わせている。べータ版を作成し、専門分野の研究者の意見を聴取した上で公開したい。
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