研究概要 |
今年度はロンドンで収集できた史料と日本で収集した史料の分析を中心に行った。香港と台湾の史料については未だ不十分であり、次年度の課題としたい。今手元にある日本とロンドンの史料のなかから析出された論点については随時活字にしている最中であり、今秋位の時期を目安に取り組んでいる最中である。 分析している内容を要約すれば、この当時、世界最大の銀産出国であったアメリカ合衆国に対して、イギリスの投資会社(例えばEmma Silver Mining Company)が多額の出資をして鉱山開発を支援していた。その結果、アメリカ合衆国で産出された銀はロンドンの銀ブローカー(例えばSamuel Montagu,やMocatta&Goldsmid)の手を経て英領インドと中国に輸出される、近世の頃とは異なる世界的な銀循環構造が成立していた。その規模は、19世紀後半の一時期縮小するものの、20世紀初頭には再び拡大基調となり、世界的な通貨需要の高まりとともにその取引額も拡大した。今までもこの点については統計上で明らかにされていたが、先行研究ではそのなかでイギリスの投資会社とブローカーがどのように関与していたのかは不明であった。それら商人の活動の視角から世界的な銀循環の構造を描くことで、国際通貨体制における新たな銀の役割を描くつもりで現在取り組んでいる。 そして銀の役割と中国の銀本位制の関係に話を進めれば、20世紀初頭に銀本位制を維持していた中国がイギリスの銀ブローカーの顧客としては当初考えていた程重要ではなかったことが、今回の史料の分析の結果、明らかになった。20世紀初頭の最も大きな銀消費地は英領インドであり、中国はむしろ英領インドに銀を輸出する側にあった。ロンドンの銀ブローカーは中国から英領インドへの銀輸出に大きく関与していた。この点から、中国の通貨制度における銀の役割について、これまでの研究では通貨制度の構造上の特殊性に着目しすぎるあまり、過大に評価しているように考えている。現段階では中国の銀本位制の全体像を描けるところまで分析が進んでいないが、今はロンドンで活躍した銀ブローカーや投資会社の分析を進め、それらの成果を早い時期に活字にすることに努めたい。
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