本年度は主として次に挙げる2つの課題に取り組んだ。1つは20世紀初頭のアジアで活躍した国際銀行業についてである。具体的には横浜正金銀行の営業活動を取り上げた。その成果は昨年度中に刊行される予定であったが、研究を進めるなかで新たな調査が必要となり、最終年度に刊行がずれ込んでいる。横浜正金銀行の成果は、中国の銀本位制が国際金本位制下で具体的にどのように機能したのかを明らかにすることにのみ貢献するものではなく、日本経済史にも有益なものだと考えている。本年度はこの課題を中心に取り組んだので、研究成果として新たに公表されたものはない。しかし、この課題に取り組むなかで、幾つの重要な論点を見出すことができ、それらに関する資料も概ね収集できているので、次年度後半にはそれらを論文のかたちで投稿したいと考えている。また本年度の資料収集において、香港上海銀行やチャータード銀行についても調査してきたので、これら金融機関の活動についても次年度中に成果として纏めたい。こうした金融機関の分析は、中国の銀本位制が国際金本位制下で具体的にどのように機能していたのかを明らかにするうえで重要な論点である。本年度はその成果を出すための資料収集・論点整理の時期として位置付けた。2つ目の課題としては銀取引を介した中国の銀本位制の性格についてである。「研究目的」でも挙げたように、20世紀初頭の世界的な銀取引において、中国はインドとともに重要な銀消費地としての役割を担っていた。そのような銀消費国としての中国の役割という観点から見て、中国の銀本位制はどのように考えることができるか、その総論的内容を、統計資料を駆使しながら現在執筆している。上海の銀市場に関しては、中国国内での資料の所在がまだ確認できておらず、今後も調査を続ける予定にしている。2つ目の課題については、成果を公表するために国内外の更なる資料収集が必要であると考えている。
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