今年度は、中国銀本位制の国際金本位制下での役割について、3つの課題を設定して分析した。まず第1の課題は、香港の銀本位制との比較という観点である。香港については一昨年度より継続して分析しており、成果は既に論考に纏めている。しかし、香港の通貨制度におけるミクロ的な分析が不十分であり、今年度はその点を克服することを試みた。その成果は2009年度の社会経済史学会で報告するように準備している。第2の課題は、中国で活動していた金融機関や銀商人の資料の分析を試みた。香港の銀本位制は、彼らの経済活動を介してはじめて金為替本位制と類似した機能を有することが可能であり、アーキヴァルな資料を通じて彼らの経済活動を分析することは重要である。こうした問題関心から、本年度は既に収集した資料を中心に分析し、結論としては、彼らはアジアで活動する上で、第一次世界大戦前後まで金銀比価に密接に関与しており、彼らの活動が、たとえ香港あるいは中国が銀本位制を維持していても、他の金本位制諸国とスムーズな経済活動を行えた大きな原因であったことを明らかにした。この検討した成果については、今論考に纏めている最中であり、早い段階で発表するつもりである。こうした2つの課題を通じて、香港がなぜ銀本位制を維持しなくてはならなかったのか、実際に中国銀本位制がどのような変化を遂げたのか、第3の課題として検討した。こちらも今年度だけでは十分に成果を得られなかったが、ほぼ結論は得られつつある。中国の銀本位制の場合も、香港の銀本位制と同様、主に英系金融機関あるいは商社の活動を通じて、金為替本位制に類した機能を有していた。しかし、香港の場合と異なる点は、それが制度化されていなかった点である。上海を要とした中国国内と遠隔地貿易をつなぐ物産の流れが確立していくなかで、中国銀本位制も英系金融機関を介するかたちで国際金本位制の一翼を担う通貨制度に再編された。
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