研究概要 |
本研究は,組織が学習する過程において果たすスラック探索の役割について問うものである。スラック探索とは,スラック資源が組織に保有されている時に発生する問題発見・解決のための探索行動を意味しており,組織が存続の危機に立つときに発生するプロブレミティック探索とは異なる性質を持つものと考えられている。スラック探索は,拡大(exploration)的学習の1つであり,革新や不連続的なイノベーションにつながるものと考えられている。一方,プロブレミティック探索は,拡張(exploitative)的学習であり,改善や連続的なイノベーションと結び付けられている。組織に革新的な改革やイノベーションが求められている場合や,従来からの慣習や取り組みとはかけ離れ,現状を打破する行為が求められる時に必要な探索は,スラック探索である。国家的課題でもある日本企業における不連続的なイノベーションの発生には,スラック探索が必要であり,その理解を深めることは重要である。このような問題意識をもとに,本研究では,スラック探索を,過去からの慣性力を超越した新しい組織ルーティンの誕生ととらえ,活動を行った。平成18年度では以下の活動を行った。まず第1に,探索行動を理解するための実証データとして,自動車産業におけるサプライヤー・ネットワークの変革を用いることとし,データの収集を行った。サプライヤー・ネットワークは経路依存性が強いことが知られており,経路依存性を打破するスラック探索を考える上で,望ましいコンテクストであると判断した。第2に,理論的バックグランドを理解するために文献調査を行い,過去のスラック探索に関する研究の蓄積を学んだ。第3に,作成中のデータ・ベースの一部を使用して,アメリカ経営学会,および,アジア経営学会で論文発表を行った。発表はおおむね好評ではあったが,サンプル数が少ない点が指摘され,今後の課題として取り組むことになった。
|