研究概要 |
昨年度の活動における反省点として,組織が行っている様々なスラック探索の中でも,どのタイプのスラック探索に焦点を当てて研究を進めていくのかが不明瞭であったことが挙げられる。様々な分野における共通した法則性の発見は長期的には重要ではある。しかし,まだ研究の蓄積が不足している現段階では,対象を限定し,特化した中でスラック探索を生み出すメカニズムに関する理解を進めることが重要だと判断した。今年度は,社会的インターアクションをテーマとしたスラック探索に関する研究を行った。具体的には以下の3つの活動が行われた。まず,本研究の基盤ともなっているいくつかの研究論文の公刊に成功した。特に,北米のフランチャイジング・データを用いた実証研究では,フランチャイジングと本社直営という2つのチェーン展開のパターンにおける認知的能力と組織モーメンタムについての関係性を発見し,この分野における理解に大きく貢献したと自負している。第2に,昨年度から取り組んでいた組織間ネットワークの構築におけるスラック探索を発展的に継続させ,未知のパートナーとの新しい紐帯形成に関する論文を執筆した。この論文では,日本自動車産業におけるサプライヤー・ネットワークに関するデータを使用し,ネットワーク共起性という言語学や社会学で使用されている概念を応用,組立会社は,高いネットワーク共起性を持つ他の組立会社と関係性を持つ未知のサプライヤーと紐帯を形成する傾向を持っ,ということを発見した。本論文は,平成20年のアメリカ経営学会の発表に提出した。最後に,コンテナ船産業におけるグローバル・アライアンス・ネットワークの構築と解消に関する研究を,カナダ,シンガポールの研究者と開始した。従来のネットワーク理論では,過去からの制約という経路依存性が強調されていたが,このプロジェクトを通じてそれ以外の新しいメカニズムの発見を行う予定である。
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