今年度は、昨年度までに収集したアーカイバル・データを用いデータの分析を行うとともに、実証研究論文としての形にまとめる作業を行った。具体的には、以下の活動を行った。(1)グローバル・コンテナ船産業における共同運航アライアンス・ネットワークのダイナミズムに関するデータの解析を行った。データには、「国際輸送ハンドブック」「Containerisation International」「Lloyd's Database」を用いた。データの一部は、INSEAD SingaporeのHenrich R. Greveと共同で収集したものである。(2)収集したデータを用いて、アライアンス形成時におけるスラック探索に焦点を当てた論文を執筆、発表した。アライアンス形成を説明するものとして埋め込み理論が挙げられるが、この埋め込み理論では、スラック探索=従来関係のないパートナーとの関係性の確立を説明することができない。そこで、労働経済学等で用いられるマッチング理論を適用し、資源のマッチングによって組織は産業内から適したパートナーを見つけアライアンスを形成していることを発見した。ここでいう資源のマッチングとは、海運会社が参加している地理的市場の相互補完性、及び、所有する船舶の特徴から得られる互換性、によって発生することが明らかになった。特に、互換性についての理論は従来の研究では報告のされていない発見であり、理論的な価値が高いものと考えている。(3)さらに、このデータを用いて、今度はアライアンスの崩壊、関係性の消滅に関する分析も行った。上記のマッチング理論を用いて、パートナー間とのマッチング状況が悪い時には関係性が崩壊するのではないか、という仮説を立て分析を行った。例えば、パートナー間の競合状況が高くなればなるほど、よりマッチングが悪くなると考えられる、その結果、メンバーの離脱が発生するのではないかと考えた。分析の結果、マッチング理論によってアライアンスの崩壊が説明できることが明らかになった。
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