研究実績としては、3つの事例に基づき研究を進めている。1つ目の事例研究は、エーザイ株式会社アルツハイマー認知症治療薬「アリセプト」探索研究チームにおける杉本チームリーダーのリーダーシップに関する研究である。この研究では、創薬研究チームのような高度な専門性が求められるチームにおいてリーダーシップを発揮するには、従来のリーダーシップ論で主張しているような指示、命令に基づく課題関連のリーダーシップ行動とフォロワーに対する人間的な配慮に関連する人間関係関連のリーダーシップ行動の両次元を同時に満たす行動ではなく、チーム全体の役割分担をデザインする課題関連のリーダーシップ行動が先行することが明らかになった。その理由としては、この場合のフォロワーはプロフェッショナルであり、リーダーよりも特定の分野では知識や経験が上回っていた。このような場合、リーダーは指示や配慮といった行動ではなく、目的を達成する手段を明確にすることで課題を円滑に遂行する行動を取った方がフォロワーは意欲的に仕事に取り組み、結果としてパフォーマンスが向上したと結論づけることができる。なお、この研究成果は、『日本経営学会誌』へ投稿し2007年3月28日に採択された。 2つ目の事例研究は、フェニックス電機株式会社の企業再建の事例研究である。この研究では、倒産したフェニックス電機に再建請負人として赴任した斉藤会長のリーダーシップに関する研究である。企業再建へ導く斉藤会長のリーダーシップは、フォロワーである経営幹部の態度の変化を促したことである。リーダーシップといえば、リーダーに喜んでついてくるフォロワーが理想とされてきたが、喜んでついてくるだけで、リーダーの言いなりというフォロワーでは意味が無い。倒産前のフェニックス電機の幹部は、まさに創業者についていくだけのフォロワーであった。このような受動的態度からリーダーとビジョンを共有する能動的な態度を涵養することがリーダーシップにとって不可欠であるということがこの研究を通じて明らかになった。フォロワーの能動性を喚起するために取られた方策は、フォロワー間で倒産に至った認識を討議する場をもうけてコミュニケーションの場を設けたことと、リーダーと意見をすり合わせて再建への戦略を構築するという言わば参加型のリーダーシップを取ったことである。能動的な態度を涵養されたフォロワーは、結果として次世代の経営者としてのトレーニングも同時につんでいたといえる。その証拠に、現代のフェニックス電機の田原社長は、この時の幹部出身である。リーダーの円滑な交代が実現したのも、フォロワーの能動性を喚起するリーダーシップの成果と言える。なお、この研究成果は、『組織科学』へ投稿し2007年2月13日に採択された。 3つ目の事例研究は、製薬会社A(匿名)における中途採用の管理者とA者の生え抜きの管理者との比較を通じてA社の組織文化が管理職の行動に与える影響についての調査である。この調査は、現在も進行しており、具体的な研究成果は本年度にまとめる。
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